【スピンラザ(ヌシネルセン)】って?効果効能・副作用を紹介!

はじめに

2017年8月23日に、スピンラザという脊髄性筋萎縮症治療薬が発売承認されました。
1瓶932万424円の薬価で、超高額な薬となっています。

今回は、スピンラザの効果効能・どんな病気に対する薬なのか・副作用、注意点について紹介します。

目次

スピンラザってどんな薬?
スピンラザの薬価って?
スピンラザの作用機序
スピンラザの用法・用量
スピンラザの副作用・注意点
まとめ

スピンラザってどんな薬?

スピンラザは、有効成分がヌシネルセンの骨髄性筋萎縮症治療薬です。

効能又は効果
乳児型脊髄性筋萎縮症
引用:スピンラザ 添付文書

ただし、平成29年9月に「脊髄性筋萎縮症」へと変更予定とのことです。
なので乳児性に限らず、すべての脊髄性筋萎縮症に効果がある薬です。

骨髄性筋萎縮症とは?

骨髄性筋萎縮症とは、遺伝子異常によって引き起こされる病気で、筋力の低下や萎縮が進行していきます。
SMA(spinal muscular atrophy)と略され、発症する時期・症状の重さから、Ⅰ型からⅣ型に分類されます。

類型 病名 発症年齢 遺伝形式
Ⅰ型 Werdnig-Hoffmann病・急性乳児型SMA 0~6ヶ月 常染色体劣性遺伝
Ⅱ型 Dubowitz病・慢性小児病SMA ~1歳6ヶ月 常染色体劣性遺伝
Ⅲ型 Kugelberg-Welander病・若年型SMA 1歳6ヶ月~20歳 常染色体劣性遺伝(まれに常染色体優性遺伝)
Ⅳ型 成人型SMA 20歳~ 孤発(常染色体劣性遺伝もしくは常染色体優性遺伝)

主な症状としては、筋力低下による立位や座位の維持困難・腱反射の消失もしくは減弱などがあります。
上肢よりも下肢でその症状が顕著に現れます。

米国においては、乳児型SMAであれば、もっとも重症の場合、2歳までの間にほとんど亡くなってしまいます。
日本においては、人工呼吸器による延命治療が可能ですが、寝たきりの状態が続きます。

骨髄性筋萎縮症の原因って?

骨髄性筋萎縮症の原因は、遺伝子の異常であることがわかっています。
原因となる遺伝子は、SMA遺伝子(運動神経細胞生存遺伝子)・NAIP遺伝子(神経細胞アポトーシス抑制蛋白遺伝子)のどちらか、もしくは両方であるだろうとされています。

どちらの遺伝子も、第5染色体の5q13に存在し、骨髄性筋萎縮症の患者さんの多くで、それらの遺伝子の欠失・変異がみられます。

その結果、正常な働きをするSMNタンパク質がすくなくなり、病気を発症するとされています。

また、Ⅰ~Ⅲ型の骨髄性筋萎縮症は、常染色体劣性遺伝により遺伝すると考えられています。

常染色体劣性遺伝とは、父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子が、両方とも変異してしまっている場合に病気になる遺伝の仕方をさします。

父親由来の遺伝子、もしくは母親由来の遺伝子の片方が変異している場合には、発症しません。ただし、その方を保因者と呼びます。

さて、保因者どおしの子供は、何%の確率で骨髄性筋萎縮症になってしまうでしょうか。
正常な遺伝子を〇、変異遺伝子を◇とした場合で考えてみましょう。

保因者父親 〇◇
保因者母親 〇◇
こどもの遺伝子 〇〇 〇◇ ◇〇 ◇◇ ←左側が父親由来の遺伝子とする。

この4パターンが考えられ、確率はすべて25%です。
なので、25%の確率で、子供が骨髄性筋萎縮症になる可能性があります。

I型の保因者の頻度は欧米では60〜80人に1人、II型、III型は76〜111人に1人といわれていますが、日本では欧米より少ないようです。
引用:難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/entry/135)

保因者の割合は上記の通りで、だいたい100人に1人くらいだろうと考えてよさそうです。
このことから、SMAになる頻度を計算してみましょう。

保因者は、自分が保因者であると認識していることは、ごくまれであると考えられるので、知らない前提で考えましょう。

保因者どおしが結婚する確率は、1/100×1/100=1/10000
子供の25%がSMAになる可能性があるとして、1/10000×1/4=1/40000となります。

4万分の1っていうと、日本において1年間に生まれる子供がだいたい100万人なので、25人の方が1年間にSMAになっている可能性がある子供だと考えられます。

スピンラザの作用機序

さて、骨髄性筋萎縮症の原因を説明したところで、スピンラザの作用機序について紹介していきたいと思います。

作用機序
ヌシネルセンはアンチセンスオリゴヌクレオチドであり、SMN2 mRNA前駆体のイントロン7に結合し、エクソン7のスキッピングを抑制することで、エクソン7含有SMN2 mRNAを生成させ、完全長SMNタンパクを発現させることにより脊髄性筋萎縮症に対する作用を示すと考えられている。
引用:スピンラザ 添付文書

呪文ですね笑
順を追って説明していきます。

ヌシネルセンはアンチセンスオリゴヌクレオチドであり、

スピンラザの有効成分ヌシネルセンは、アンチセンスオリゴヌクレオチドとあります。

まず、ヌクレオチドというのは、DNAやRNAの構成成分でもある構造をさします。
オリゴヌクレオチドというのは、20塩基以下のヌクレオチド鎖のことです。
(※塩基=DNAやRNAを構成する最小の情報単位のこと、DNAには(A・T・G・C)、RNAには(A・T・G・U)の4種類がある)
つまるところ、ヌシネルセンは、DNAやRNAと似た構造をしているよという意味にとらえてください。

また、アンチセンスというのは、ターゲットとなるDNA配列の相補的配列のことをさします。

塩基はAはT(U)、GはCにひきあう性質があります。
このひきあう性質により、二つの配列がひきよせられ、DNAの二重らせんを形成しています。

相補的配列とは、この互いにひきよせられるような配列のことをさします。

例えば
ターゲット ATGCTTAA
であれば、

アンチセンス TACGAATT
となります。

SMN2 mRNA前駆体のイントロン7に結合し、エクソン7のスキッピングを抑制することで、

mRNAとは、メッセンジャーRNAのことです。
DNAはまずmRNAに転写され、mRNAが翻訳されることによりタンパク質ができあがります。
(高校の生物でならった、、、はず??)

イントロンとはなんでしょうか。
転写されたmRNAには、イントロン部分とエクソン部分が存在します。

これがスプライシングにより、イントロン部分が削られて、エクソン部分だけになります。
エクソン部分のみのmRNAは成熟mRNAと呼ばれ、翻訳されることでタンパク質になります。

この図でいうところの、一番上の遺伝子図の四角部分がエクソン、線のところがイントロンです。

脊髄性筋萎縮症の患者さんにおいては、SMA遺伝子の欠失・変異があることにより、短い長さのSMNタンパクしか作り出せないとされています。

その原因は、エクソン7の6番目のCがTに変わっていることに起因します。
たったそれだけなのです。
その影響で、エクソン7がまるごとスプライシングのときに削られてしまい、機能をもたないSMNタンパク質が多く生じてしまいます。

スピンラザは、イントロン7に結合することにより、エクソン7のスキッピング(イントロンと一緒に抜け落ちること)を防ぐ効果があります。

エクソン7含有SMN2 mRNAを生成させ、完全長SMNタンパクを発現させることにより

完全長のSMNタンパクが多く出現することで、正しい機能をもっているので、脊髄運動ニューロンの生存を維持することができ、健常人と同じような筋肉運動をすることができるとされています。

この内容を、すごくざっくりと簡単に説明すると、スピンラザは遺伝子に作用し、遺伝子の欠失・変異している箇所を補強して、健常人と同じSMNのメッセンジャーRNAのを作りだすことにより、運動ニューロンの生存を維持する機能をもったタンパク質を生成させる薬ということになります。
この作用をもつ薬は現在のところスピンラザしかなく、画期的といえます。

スピンラザの薬価って?

スピンラザは、とても高額な薬になります。
1瓶5ML入りで、932万424円です(2017年8月23日の承認時点)

どうしてこんな価格になってしまうのでしょうか?

まず、この薬価に設定された根拠から説明していきます。
スピンラザは「原価計算方式」という、原価をもとに薬価が算定される方式により、薬価が決定しました。

製品総原価 6,883,400円
営業利益  1,704,212円(流通経費を除く価格の19.8%)
流通経費  42,410円(消費税を除く価格の0.49%)
消費税   690,402円
合計    9,320,424円

また、海外での価格は下記のとおりです。
米国 150,000ドル 16,200,000円
独国 109,880.04ユーロ 12,965,845円(予定価格)
引用(一部改変):中央社会保険医療協議会 総会(第359回) 議事次第

患者数が少ないから

承認申請時に提出された資料によると予定患者数は、下記のとおり。

294人 97億円(乳児型脊髄性筋萎縮症のみ)
120人 22億円(それ以外の脊髄性筋萎縮症)

また、SMAは指定難病に指定されており、2014年度の医療受給者証保持者数は894人です。
かなり患者数がすくないため、採算をとるために必要な一人当たりの金額が高額になってしまいます。

国内初のアンチセンス核酸医薬だから

スピンラザは、国内で初めて承認されたアンチセンス核酸医薬品となっています。
つまり、遺伝子を模した革新的な薬といえます。

そのため、原価計算方式の際に、日本政策投資銀行が発行している産業別財務データハンドブックに基づいて算出される営業利益率【14.7%】に対して、プレミアムとして35%上乗せされた【19.8%】がスピンラザの原価に対する営業利益としてのせられています。

スピンラザの用法・用量

用法及び用量
通常、ヌシネルセンとして、1回につき下表の用量を投与する。
初回投与後、2週、4週及び9週に投与し、以降4カ月の間隔で投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。

引用:スピンラザ 添付文書

スピンラザは、日齢に応じてその投与量が変動する薬となっています。
ちなみにですが、5mLのバイアルなので、残る部分があるかと思いますが、これはどうするのでしょうか??

適用上の注意
投与時
使用後の残液は使用しないこと。
引用:スピンラザ 添付文書

答えは、廃棄処分です。

値段が値段だけに、余った部分でも相当な金額なのですが、安定性や雑菌混入のリスクを考えると、妥当なのかもしれません。

スピンラザの副作用・注意点

主な副作用は発熱(2.5%)、頻脈、貧血母斑、蜂巣炎、処置後腫脹、眼振、血管炎、体温低下、体温上昇(各1.3%)であった。
引用:スピンラザ 添付文書

報告されている副作用は上記のとおりです。
これ以外にも副作用発現することが考えられるので、体調悪化あれば医師にすぐに報告するようにしてください。

まとめ

いままで、脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療薬のなかには、症状を緩和するものはあっても、根本的な原因を解決する薬がありませんでした。
スピンラザは、SMAの根本的な原因を解決するクスリなので、その効果に期待が寄せられています。

スピンラザの作用機序は、アンチセンス鎖オリゴヌクレオチドがイントロン部分に結合することによるエクソン7部分のスキッピングを防ぐことにより、完全長のSMNメッセンジャーRNAの生成を増やし、運動ニューロンの生存を維持する機能をもった正常なSMNタンパク質を増やすことにより、骨髄性筋萎縮症を治す薬です。

今後も、遺伝子レベルで病気を治療する薬が開発されていくことが予想されます。

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コメント

    • 瀧波様
    • 2017年 11月 04日 6:23am

    永年病名も分からず、2017年の春頃にそれらしき脊髄性筋萎縮症と確定しましたが、治療は今までと何も変わらないので不信感が募っています。
    もちろん病状は二年位前から急激に進んでいるにも関わらずです。その間、京大付属の病院へセカンドオピニオンとして入院した事もあります。その時も病名は特定されなかったのですが…。
    母親も兄弟姉妹も程度の差こそありますが、よく似た症状で悩んでいます。
    この記事を見て、凄くお金が掛かるのだなぁと思いました。難病たる由縁でしょうね。途中でこ息切れしてしまいそうです。

      • 管理人
      • 2017年 11月 10日 8:59am

      希少疾患の難しさですよね。
      医師も遭遇ケースが少なくて、この病気かもしれないという「ひらめき」がなかなかでてこないのかなと思います。

      遺伝子系の疾患を手軽に全般的に調べることができる検査キットが開発されれば、早期の原因特定・治療開始ができると思うのですが、まだ医療がそこまで進んでいないというのが現状です。

      お金に関しては、日本では「高額療養費制度」があり、青天井にはお金がかからないのはいいところだと思いますが、それでもお金が結構かかってしまいますよね。。。なかなか難しいところです。

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